平成二一年、金融機関の不良債権処理は峠を越えたといわれているが、この時期には不動産鑑定会社は「二つの鑑定価格」の間で頭を悩ませていた。同じ金融機関からの鑑定依頼でも、不良債権がらみの物件には部署によって正反対の鑑定価格を期待する。同じ審査部門の中でも、金融庁とやりあう部署では、鑑定価格を可能なかぎり高めにして、不良債権額を低く抑えたい。一方、不良債権の回収部門は鑑定額をなるべく安くして、資産を早く売却したい。安い鑑定額であれば、それより高い価格で売却すると、行内で誉められるということもある。常識的には一億円の物件を八〇〇〇万円と評価させる。不良債権処理担当課が九〇〇〇万円で売却すれば、その努力を認められて評価が高まる。本当は一〇〇〇万円安い価格で売却しているのに。鑑定会社としてはなかなか気を使うところだ。不動産鑑定・調査で、故意やミスによる誤った報告(つまり水増し査定)が発覚するのは、金融機関による年に一度の物件調査(最近はどの金融機関も実施している)か、債務者が支払不能に陥り、その原因を外部の人が追及するときである。定期的なチェックで判明したときに、それを隠すか表面化させるかは金融機関の思惑次第だ。もとより金融機関の担当者と鑑定士が結託していれば、債務者が支払不能になるまで誤報告は判明しない。だが、もし大量の支払不能案件が表面化するような事態に至れば、そのときその金融機関は、もはや倒産状態であることは間違いない。この段になって、不動産鑑定会社に抗議することなど不可能に近い。評価額を水増しした鑑定で、最後にババを引くのは金融機関である。ババをつかんだことは、数年たたないと表面化しないのが困ったところなのだが、それだけに、金融機関は不動産鑑定・調査会社を選ぶ際は、よほど慎重にしなければならない。
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